「複製」と簡単に言うけど、具体的にどういう行為が複製になるんですか?

A:ある著作物を元に、その内容、形式が分かるものを作ることです

「複製」というとコピー機での複写のように全く同じものを作ることをイメージするでしょう。
しかし著作権法では複製の意味はそれよりもやや広く解釈されています。

著作権法では「複製」は以下のように定義されています。

著作権法 第二条第一項十五号
複製 印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいい、次に掲げるものについては、それぞれ次に掲げる行為を含むものとする。
イ 脚本その他これに類する演劇用の著作物 当該著作物の上演、放送又は有線放送を録音し、又は録画すること。
ロ 建築の著作物 建築に関する図面に従つて建築物を完成すること。

法律というのは普通に読んだだけでは良くわからないですね。
とりあえず「イ」と「ロ」は無視して考えて構いません。

「有形的」とは形のある状態のことで、何らかの「物」になっていることです。
音楽の場合はCDなどに収録されていれば有形的と言えますが、楽譜を見て楽器で演奏した場合は有形的ではありません。

「再製」とは「再度作ること」です。

判例では以下のように定義されています。

著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきである


昭和53年9月7日 最高裁第一小法廷

「依拠」とはあるものに基づいていることです。

「覚知」はそれが何であるか知ること、認識することです。

著作権法の複製の定義、および上記判例をわかりやすい表現にすると

・ある著作物を元にして、その著作物の創作的表現が認識できるものを作ること。

となるでしょう。

もう少し具体的に説明されている例を見てみます。

著作物の再製は,当該著作物に依拠して,その表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成することを意味するものと解され


 平成23年5月20日 東京地方裁判所

表現上の本質的な特徴を直接感得」できる、というのは著作権の判例や解説でよく出てきます。
「表現上の本質的な特徴」の意味は著作権法が保護しているもの、つまり作者の思想感情の創作的表現です。
言い換えれば作品に表れている作者の個性ですね。
著作権法で保護されるものこそが「本質的な特徴」であり、著作権法で保護しないようなものを複製して著作権法上の問題になるわけはありませんから、この解釈が妥当でしょう。

この考え方は著作物を改変(翻案)した場合でも登場し、例えば小説の映画化など、文章→映像、と著作物の表現形式が大きく変わっても「直接感得」できるとされています。
つまり、元となった作品の作者の思想感情、個性といったものを感じ取れるか、が重要なポイントです。

細部に多少の違いがあったとしても、本質的に同じ物と言えるならば著作物の再製とされています。

再製とは,既存の著作物と同一性のあるものを作成することをいうと解すべきであるが,同一性の程度については,完全に同一である場合のみではなく,多少の修正増減があっても著作物の同一性を損なうことのない,すなわち実質的に同一である場合も含むと解すべきである。


平成17年5月17日 東京地方裁判所

例えば、漫画のキャラクターの絵は、特定のコマと同一のものを描くことだけではなく、別のポーズをしているキャラクターの絵を描くことも複製であると判断されています。
(平成9年7月17日 最高裁判所第一小法廷)
漫画のキャラクターはその外見、造形こそが創作的な表現です。
ポーズという著作権法で保護されないものはどうでもいいポイントで、要するにそのキャラクターだとわかるものを描くということは、その著作物の本質的な特徴を直接感得できるものを作る行為なので複製に当たるのです。

音楽CDをMP3などの圧縮データに変換する行為も、音楽の創作性については変更がないためこれも複製に当たります。
(平成15年1月29日 東京地方裁判所)
音楽で重要なのはCDという円盤ではなく、収録されている音楽の創作性です。

このように、著作権法でいう複製は「同じ物を作る」という厳密な意味での複製行為ではなく、著作物性、創作性といった作品に表れている作者の個性が、複製とされる作品にも表れているかどうかで判断されています。
逆に言えば、ある著作物を元に作ったとしても、元の著作物の創作性が感じられないものが出来上がった場合には複製には当たらないことになります。

絵画を写真撮影する場合

絵画も写真も平面に表現された著作物です。
絵画そのものと、それを撮影した写真と、それぞれに表現されている作者の個性にほぼ違いはありませんから、これは単純な複製になると考えられます。
(単純な複製なので、カメラマンに権利は発生しません)

彫刻などを写真撮影する場合

立体の著作物は立体であることが重要なポイントですが、それを写真に撮影したら元作品の作者の個性がなくなってしまうわけではありません。
よほど撮影の仕方が悪くて何かよくわからないものが撮れた、というような場合を除けば彫刻の写真も複製に該当すると考えられます。

さらに、対象が彫刻などの立体である場合、撮影する角度によってその作品のイメージが変わってきます。
他にもライティングによる陰影のつけ方など、撮影者の行為には創作性を認める余地があります。
このように、ある著作物に新たな創作性を加えて表現することを翻案と言います。

写真の撮影者に創意工夫が認められれば、撮影者にも新たな著作権が認められます。
このような著作物を二次的著作物といいます。
(創意工夫がなければ複製になります)

しかし、新たな著作権が撮影者に認められるといっても、撮影者は元の彫刻の著作権者の許可なしにその写真を使用することはできません。
その写真には被写体である彫刻が持つ著作物性も含まれており、それに対する権利は撮影者は持っていないからです。

つまり、複製・翻案のどちらに当たるとしても、元の著作権者の許可がないと勝手な使用はできません。

なお、被写体にした著作物の創作性が表れていない場合は複製にも翻案にも該当せず、写真の撮影者にすべての権利が認められます。
ただしこれは被写体となった作品の創作的表現が感じられない状態ということですから、あまりないケースでしょう。

絵画を立体化する場合

写真撮影の場合とは逆に、平面のものを立体化する場合も考えられます。
例えば元が平面である漫画キャラクターを立体のフィギュアにする場合などです。

この場合の判断基準も基本的に同じです。
元が平面であっても漫画の場合はたくさんのコマがあり、キャラクターは様々なポーズで様々な角度から描かれています。
これを忠実に立体化しただけでは、立体化した人が新たな創作性を加えているとはいえず、複製に当たると考えられます。

他方、元となる絵が正面から見た構図しかなく、背面など描かれていない部分を想像で補って立体化した場合などは、その点に創作性が認められれば翻案に当たります。

つまり漫画やアニメのキャラクターグッズは、グッズを作った人の創作性の有無にかかわらず原作品の著作権が存在します。
そのため、勝手にグッズを作って販売すると著作権侵害(複製権もしくは翻案権の侵害)で逮捕されるおそれがあります。

設計図を元にして製品を作る場合

設計図自体も著作物となり得ます。
しかし設計図は絵画とは異なり、美術の著作物ではなく学術の著作物として保護されます。
そのため、絵画の場合とは複製の範囲が異なります。

設計図に従って製品を作ることは複製にはあたらないとされています。
著作物を元にして作られたとしても、出来上がった製品それ自体は著作物とは呼べないからです。
(平成4年4月30日 大阪地方裁判所)

設計図を元に建築物を作る場合は複製に当たる場合があります。
建築物は建築の著作物として保護を受ける場合があるからです。
このことは一番最初に提示した著作権法上の複製の定義(ロ)に書かれています。
(常に複製に当たるわけではなく、その建築物が建築の著作物に当たる場合です)

ある著作物に「依拠」していることが条件

すでに書きましたが、複製というからには複製する「元」が必要です。
複製元がなければ著作権法上は複製になりません。

例えば作曲をするとします。
何の真似もしていない、完全なオリジナル曲(以下、曲Aとする)です。

しかし、実はその曲にそっくりな曲(以下、曲Bとする)がすでに発表されていたとします。
後から発表した曲Aは曲Bの著作権侵害(複製や翻案)になってしまうのでしょうか?

このような場合には著作権法上、複製にも翻案にも当たりません。
曲Aは曲Bを元にして作られたわけではなく、偶然の一致の場合は「依拠性がない」ため著作権法上は何ら問題はないのです。

もし相手から訴えられて裁判になれば本当に依拠せずに作られたものなのかどうかは検証されます。
依拠して作られたことの立証責任は訴えた側にあり、立証できない場合や、立証したが反論されそちらが認められた、という場合には著作権法上問題がないものとされます。

ただし、著作権法上は問題がないとしても「パクリ」という批判を受けてしまう可能性はあるでしょう。
これはどうしようもありません。