キャラクターは著作物ではないと聞きました。本当でしょうか?

A:本当です。しかし「キャラクターの絵」は著作物です。

「キャラクターは著作物ではない」と聞くと「そんなバカな」と思うかもしれません。
しかしこれは本当です。

著作権の有名な裁判例に「ポパイ事件」というものがあります。
ポパイというのは古い漫画作品で、その主人公の名前でもあります。
その主人公キャラクターの絵柄を使用したネクタイを無断で販売していたところ訴えられた、という事件です。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/776/054776_hanrei.pdf
(裁判所の判決文)

この判決で最高裁は以下のように述べています。

著作権法上の著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(同法二条一項一号)とされており、一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、右登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない。けだし、キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができないからである。


最高裁判所第一小法廷 平成9年07月17日

難しい表現が並びますが、簡潔に説明しますと

  • 連載漫画の場合は漫画の各回(第1話とか2話とか)のそれぞれが著作物である
  • 漫画のキャラクターはそれ単独では著作物ではない
  • キャラクターとは登場人物の人格ともいうべき抽象的概念
  • 具体的表現ではないので著作物とはいえない

というものです。

最高裁がそう言っているのですから、「キャラクターは著作物ではない」ということは間違いありません。
ついでに、上の判決文の範囲には書かれていませんがキャラクターの名前も著作物ではないとされています。

「キャラクター」って?

ここで話を終わらせると正しく理解できません。
よく見ると、最高裁は「キャラクターは著作物ではない」としか言っていないのです。

ではキャラクターとは何でしょうか。
判決文では「登場人物の人格ともいうべき抽象的概念」と述べています。
つまり「登場人物の人格は著作物ではない」ということになります。
人格というのは要するにその人の人柄、性格のことですね。

例えば「Aさんは明るく活発、勉強は苦手」といった感じのキャラの設定は著作物ではないと述べているに過ぎません。
確かにこんなものは著作権法で保護しようがないですよね。

同じ判決文では次のようにも述べられています。

著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうところ(最高裁昭和五〇年(オ)第三二四号同五三年九月七日第一小法廷判決・民集三二巻六号一一四五頁参照)、複製というためには、第三者の作品が漫画の特定の画面に描かれた登場人物の絵と細部まで一致することを要するものではなく、その特徴から当該登場人物を描いたものであることを知り得るものであれば足りるというべきである。

第一回作品においては、その第三コマないし第五コマに主人公ポパイが、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえ、腕にはいかりを描いた姿の船乗りとして描かれているところ、本件図柄一は、水兵帽をかぶり、水兵服を着、口にパイプをくわえた船乗りが右腕に力こぶを作っている立ち姿を描いた絵の上下に「POPEYE」「ポパイ」の語を付した図柄である。右によれば、本件図柄一に描かれている絵は、第一回作品の主人公ポパイを描いたものであることを知り得るものであるから、右のポパイの絵の複製に当たり、第一回作品の著作権を侵害するものというべきである。


最高裁判所第一小法廷 平成9年07月17日

一段と長いですが、要するに

  • 著作物の複製とは、元となる著作物の内容や形式が分かるものを再製すること
  • 漫画に描かれた登場人物の絵と細部まで一致する必要はない
  • 漫画内のポパイと、ネクタイに描かれたポパイは特徴が一致するので複製に当たり、著作権を侵害する

と述べています。
キャラクターは著作物ではないはずなのに、急に「著作物の複製」を認めて著作権侵害であると言っているのです。

これはもちろん間違いなどではなく、ちゃんと理由があります。
複製の問題となったのは「キャラクター」ではなく「キャラクターの絵」だからです。
判決文にもしっかりと「登場人物の絵」と書かれています。

つまり、キャラクター(の性格)は著作物ではないけれど、キャラクターを絵で表したものは著作物になるのです。
具体的表現であれば良いのですから、絵に限らず文章で表しても著作物になります。

なので、絵や文章をパクれば著作権侵害となります。
これはごく当たり前のことで、絵や文章は基本的に著作物なのに、それがキャラクターを表したものになったとたんに保護されない、なんてことはありません。

「キャラクター」という言葉は日本では絵などの外見を含めた意味や、絵そのものの意味で使用されることが多くあります。
(性格設定が特にない「キャラクター商品」は結構ありますよね)
なので「キャラクターは著作物ではない」というと「えっ!?」と思ってしまいます。
この表現は正しいのですが、「キャラクター」が何であるかを明確にしないと混乱が生じてしまいます。
特に、著作権法に詳しくない人がネットで調べ物をして、どこかのサイトで「キャラクターは著作物ではない」という情報だけを得て、間違ったまま理解しているケースがままあるようです。

ちなみにこの裁判では、ポパイの絵(著作物)の複製であることは認められたのですが、著作権の保護期間がすでに終了しているため最終的には著作権侵害ではない、と判断されています。
「著作権侵害を訴えた側が敗訴した」という点も話を紛らわしくしている一因かもしれません。