人形、フィギュア、ぬいぐるみなどは著作物ですか?

A:個別に判断する必要があります。

人形やぬいぐるみの著作権の有無の判断は意外に難しく、YesかNoかで簡単に判断できるものではありません。
ここでは参考になる事件をいくつか紹介します。

ファービー事件

まず、有名な事件にファービー事件というものがあります。
ファービー事件 判決文

これはファービー人形という電子ペットの著作物性が争われた事件です。
参考画像:Google検索「ファービー人形

この事件では、ファービー人形は工場で大量に生産されるもので、こういったものは著作権法ではなく意匠法による保護が妥当であるとしています。
また、ファービー人形は飾って鑑賞するようなものではなく、電子ペットという「遊ぶ」ことを目的としたものです。
外見や形状などもその目的のための形状をしており、著作物と認められるような美観はなく、著作物性を否定しています。

純粋美術と応用美術

絵画などは、作者の内面にある思想感情を表現するためのものであり、鑑賞することを目的として作られるものです。
こういったものは純粋美術といい、著作物性が肯定されやすいものです。
「子供の落書きでも著作物になる」と言われるほどで、何らかの作者の個性が表れていれば良いとされています。

一方でファービー人形は、おもちゃとして遊ぶことを目的として作られるものです。
こういったものは実用品といいます。
おもちゃのほかにも、食器や家具、家電製品など、とにかく鑑賞目的以外で作られるものは実用品です。

実用品であってもデザイン性の高い形状、外観になっている製品は沢山あります。
こういったものは応用美術といいます。
応用美術も著作物になり得るのですが、それには純粋美術と同視し得る程度の美的創作性が必要である、とされています。
(単純な美しさだけではなく美的「創作性」が必要)

具体的にどの程度で著作物と認められるかの判断は容易ではありません。
人形やぬいぐるみは「著作物か否か」を簡単に判断できないのはこのためです。

著作物となるには「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」という条件を満たす必要があります。
実用品は「文芸」「学術」「美術」「音楽」の範囲から外れるため、思想感情の創作的表現があっても、原則として著作物とは認められないことになります。

博多人形事件

工場での大量生産品は著作物性が否定される要素になり得ますが、大量生産品は常に著作物ではない、というわけではありません。
大量生産品に著作物性を認めた事件に博多人形事件(博多人形赤とんぼ事件)があります。
博多人形事件 判決文

この事件では、大量生産品であること、意匠法での保護があることのみを理由として著作物性を否定することはできないとしています。
大量生産品であっても、その外見に創作的表現が認められれば著作物になるとしています。
つまり、大量生産品は意匠法と著作権法の両方の保護を受けられる余地があることを示しています。

ファービー事件との違いは、ファービー人形は「遊ぶこと」を主目的として作られていて、その機能を備えるために美的創作性が低いものになっていることが挙げられます。
博多人形事件は、童謡の「赤とんぼ」から受けるイメージを創作的に表現し、その造形も美術工芸的価値があり、著作物に該当するとされています。

チョコエッグ事件(海洋堂フィギュア事件)

お菓子のオマケ(食玩)として付けられているおもちゃのフィギュアの著作物性が争われた事件にチョコエッグ事件(海洋堂フィギュア事件)があります。
お菓子のオマケなので小さな人形なのですが、精巧に作られていて人気があったシリーズです。
チョコエッグ事件 判決文

この事件では、まずフィギュアが純粋美術か応用美術かが争われています。
純粋美術ならば比較的容易に著作物と認められ、応用美術ならば高い美的創作性がなければ著作物とは認められません。

このフィギュアは精巧ではあるものの、お菓子のオマケとして付けられる「おもちゃ」であり、鑑賞することを目的とした純粋美術としては作られていない、と判断されています。
単純なおもちゃではなく、大人もフィギュア目当てで購入するほどの人気があったことは認められましたが、見る人によって応用美術か純粋美術かの判断が分かれるようなものは純粋美術として扱うことはできない、としています。
著作権法には刑事罰もあることから、曖昧な判断基準で人を罰することになるというのがその理由です。

次に、「動物」「妖怪」「不思議の国のアリス」の三種類のフィギュアについての著作物性が争われています。
そして、「動物」「アリス」については著作物性が否定され、「妖怪」については著作物性が肯定されています。

「動物フィギュア」は、現実世界の動物を精巧に表現しているけれども、その形状や色彩、ポーズ等は一般的な図鑑などにみられるもので、作者の思想感情の創作的表現は低く、純粋美術と同視し得るような美的創作性はない、とされています。
「アリスフィギュア」も同様で、原本小説の挿絵に使用されているアリスの絵柄を忠実に再現しているが、作者の個性が表現されているとはいえない、というものです。

一方で「妖怪フィギュア」は、妖怪を描いた原画(鳥山石燕)を元にして作られているが、原画には見られない表現、原画とは異なる表現、原画では描かれていない部分が立体化にあたって新たに加えられているとして、作者の創作性が肯定されています。

この判決では、「忠実に再現すること」については創作性が低いとしています。
しかし、「風景を忠実に描いた絵」は純粋美術なのでほとんどの場合で著作物になることに注意してください。
あくまでも応用美術(実用品)として再現した場合に、著作物とは認められにくくなります。

何かの「フィギュア」を作る場合、実用品として作るか純粋美術として作るかで著作物になる/ならないの判断が変わる可能性がある、ということです。
つまり、作品の出来上がりだけで判断することはできません。

漫画やアニメのキャラクターフィギュアは著作物

上で説明した通り、原画を忠実に再現しただけでは著作物にならない場合があります。
しかし、漫画やアニメのキャラクターフィギュアには著作権がないというわけではありません。
漫画やアニメは原作が著作物ですから、それを元に作られた物には「原作品の著作権」が存在します。

これは当たり前なことで、漫画本をコピー機でコピーしたらそれには著作権はない、なんてことはありません。
コピー本を無断で配布すれば著作権侵害です。
(著作物の複製)
同じように、漫画キャラをフィギュアにして販売することは違法ですし、正規品のフィギュアを改造して販売することは著作物の改変に当たりますのでこれも違法です。

なお、フィギュア化(立体化)にあたって、フィギュア化した人の創作性が表れていれば、それは原作品の二次的著作物となります。
(著作物の翻案)
そのフィギュアには「原作品の作者」と「二次的著作物の作者」の二つの著作権が存在します。
創作性がなければ単純な複製となり、「原作品の作者」のみの著作権が存在します。