何が「著作物」になるかがよくわかりません。具体的にどういうものが「著作物」になるんでしょうか?

A:作者の思想感情を創作的に表現したもののうち、「文芸」「学術」「美術」「音楽」の範囲に属するものを言います。

著作権とは何だ?のページでも簡単に説明していますが、改めて「著作物とは何か」を詳しく解説します。

まずは法律条文の定義を見てみましょう。

(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と定義されています。
この文章の意味をひとつずつ見ていきましょう。

「思想」または「感情」

著作物になるには、まず作者の「思想」「感情」があることが必要です。
「思想」などと言うと難しく感じますが、これは「心に思い浮かぶもの」とか「ものの考え方」といった意味です。

英語では「ideas(アイデア)」が思想です。
日本語でアイデアというと「(良い)思い付き」のような感じで使われていますが、「感覚」とか「概念」などの意味もあります。

この要件は、単なる事実や情報に過ぎないものは著作物にはならないことを示しています。
例えば「日本の首都は東京」とか、「江戸幕府を開いたのは徳川家康」といった情報は、誰の思想も感情も含まれていないので著作物にはなりません。

著作物とならないのは「単なる事実や情報」それ自体です。
単なる情報であっても、それを創作的に表現すれば著作物になり得ます。
(詳しくは後述します)

最近はAIによって生み出される作品がありますが、これも「思想感情」が含まれないので著作物にはならないとされます。
(少なくとも日本では)

実は著作権法では「思想感情」の要件は重要視されていません。
人が何らかの創作活動をするということは、多かれ少なかれ思想や感情が含まれることがほとんどだからです。
「思想感情」の要件が関係するのは一部の例外のみと考えたほうが良いです。

「創作的に表現」したもの

次に、思想感情を「創作的に表現したもの」である必要があります。
著作権法では「思想感情」よりも「創作性」が重要視されます。

この要件は、ありふれた表現は著作物にはならないことを示しています。
例えば「今日の夕焼けは綺麗だ」という文章には感情が含まれていますが、創作的と言えるような表現はなく、著作物にはなりません。
同じ感情を比喩表現を用いるなどして文学的に表現すると著作物になるでしょう。

しかし、そういった優れた文章だけが著作物になるわけではなく、「ありふれた表現」を超えて「作者の個性」が表われていれば良いとされます。

「創作的」と「独創的」は別ものです。
創作性は「誰も考えつかないような独特なもの」であることを必要としません。

そのため、小学生が書いた作文であっても著作物になる、とされます。
ひとつひとつの文章は稚拙でも、ある程度の文章量があると「どのように文章を組み立てるか」という点に個性が表れるためです。
遠足の思い出を作文にしたとき、どの子の作文もほとんど同じ文章構成…ということはないでしょう。

逆に言えば、ある事実をごく短文で表す場合、短いがゆえに表現できる幅が狭く誰が書いても同じような表現にならざるを得ないことがあります。
このようなものは「ありふれた表現」ですから保護の対象にはなりません。

つまり、短文であるほど著作物となる可能性が低くなり、長文であるほど著作物となる可能性が高くなります。
どれくらいの文章量があれば著作物になるかは一概には言えず、個別に検討する必要があります。

例えばごく短文であっても、俳句のようなものは「人の感情に季語を交えて特定の音のリズムに乗せて表現する」ということに創作性がある(個性が表れる)ため多くの場合で著作物となります。
逆に、文章量はあっても単に事実を箇条書きで並べただけのものは著作物にはならない可能性が高いです。

「創作的」とは、芸術作品のような高度なものを必要としません。
著作権法は文化の発展に寄与することを目的としています。
(著作権法 第1条)
もちろん芸術作品を生み出すことは文化的活動ですが、人の日常生活で生み出される作品も含まれます。

アイデアは保護されない

著作権法は「思想(アイデア)や感情」は保護しません。
著作権法が保護するのは、思想感情を「創作的に表現したもの」であって、「アイデアそれ自体」ではないのです。

逆に言えば、アイデア自体はありふれたものであっても、その表現方法に作者の個性があれば著作物として保護されます。
例えば映画や小説、漫画などの「設定」はアイデアに過ぎず著作権法では保護されません。
そのため同じような設定の作品は無数にあります。
しかし具体的表現である文章や絵などが別物なので、著作権侵害にはならないのです。

著作権法上は問題がないとしても、あからさまにパクった作品は当然批判されます。

単なる事実を創作的に表現した場合

著作物となるには「思想感情」「創作的表現」という要件がありますが、では「思想感情を伴わない情報を創作的に表現する」ことについてはどうなるでしょうか。

例えば歴史の教科書の文章などです。
歴史上の事実は思想感情ではないので教科書のテキストは著作物にはならない、という考えは一応成り立ちます。

確かに歴史上の事実を単に羅列しただけであれば著作物にはならない可能性はあります。
しかし歴史の教科書は、ただ情報を羅列したものではなく、学習者に歴史をわかりやすく伝えるために工夫された文章となっています。
「こういう文章にしたほうがより分かりやすいだろう」という作者の「思想(考え方、アイデア)」があり、それを具体的に表現した文章に「創作的な表現(ありふれたものではない、作者の個性が表れたもの)」であれば、著作物となります。

歴史の教科書といっても、小学生向けと大学生向けでは内容が異なって当然です。
同じ学年向けでも出版社が異なれば表現は異なり、わかりやすさなどにも違いがあるでしょう。
読み手に与える印象が異なるということは作者の個性が表れていると言えます。

ノンフィクション小説は事実をもとにした小説ですが、これを著作物ではないと言う人はいないでしょう。
ただ事実を羅列するのではなく、どのように面白い文章にして作品にするか、という点に創作性があります。

単なる事実を並べたものであっても、素材の選定や配列(並べ方)に創作性があれば編集著作物に該当する場合もあります。
例えば「タウンページ」は電話番号(著作物ではない)を羅列したものですが、掲載する番号の選択や並べ方に創作性があり著作物であるとされています。

「文芸」「学術」「美術」「音楽」の範囲に属するもの

最後に、「文芸、学術、美術、音楽の範囲に属するもの」という要件があります。

一見何やら難しい要件に思えますが、これもあまり重要視されていません。
かなり広範囲に解釈されており、大抵はいずれかに属するものと判断されます。
例えば絵画や映画、漫画などは「視覚的に楽しむもの」であり、美術の著作物に該当します。
映画や漫画にはセリフやストーリーがあり、文芸の著作物にも該当します。
映画に含まれるBGMは音楽の著作物です。

この要件により著作物から除外されるのは、「思想感情」の要件と同じく一部の例外的なものに限る、と考えたほうが良いです。
「文章」や「絵」など、それ単体で成立するものならばいずれかに該当し、本来の用途に付随するものはこの要件により除外されることがある、という程度です。
例えば実用品のデザインはこの要件により著作物の定義を満たさないと判断されることがあります。

実用品とは「使うことが目的のもの」をいいます。
例えば衣服や食器、家具などです。

ただし高度な家具デザインに著作権を認めた例もあります。

著作物の例示

著作権法10条では、以下のものが著作物として例示されています。

  1. 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
  2. 音楽の著作物
  3. 舞踊又は無言劇の著作物
  4. 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
  5. 建築の著作物
  6. 地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
  7. 映画の著作物
  8. 写真の著作物
  9. プログラムの著作物

これらはあくまでも「例示」であり、これ以外のものも著作物として保護され得ます。

著作権法10条は、見出しが「著作物の例示」となっています。
その名の通り、著作権法10条は「こういうものが著作物ですよ」ということをより明確化するための条項です。

著作物となる条件はあくまでも著作権法2条の「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」の定義の通りであり、著作権法10条はこの定義を拡大したり縮小したりするものではありません。

例えば、建築物はそのすべてが著作物になるのではなく、あくまでも創作性のある建築物が著作物となります。
(一般的な家やビルなどは建築の著作物ではありません)

著作物に該当しないもの

同じく著作権法10条では、以下のものは著作物にはならないとされています。

  • 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道
  • プログラム言語、規約及び解法

これは著作権法2条の定義の例外を定めるものではなく、そもそも著作権法2条の定義に該当しないことを明確化するものです。
上にも書いた通り、著作物の定義を縮小するものではありません。

事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は言語の著作物に該当しない旨を定めた著作権法10条2項は、事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は同法2条1項1号にいう「思想又は感情を創作的に表現したもの」に該当しないことから、保護の対象にならない旨を確認的に規定したものであると解され、
(平成6年10月27日 東京高等裁判所)

事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道

事実の伝達にすぎない雑報、および時事の報道は著作物とはなりません。
例えば新聞の訃報欄(人の死亡を伝える小さな記事)やイベントのお知らせなどのごく短い記事が該当します。

一方で、一般的な新聞記事は著作物です。
新聞記事は単なる事実の伝達を超えて読者に事件を正確にわかりやすく伝えるための文章表現が存在します。
同一の事件を伝える記事であっても記者や新聞社毎に表現が異なり、その点に作者の個性が表れていると言えます。
(上で説明した「歴史の教科書」と同じです)

プログラム言語、規約及び解法

プログラム言語、規約および解法は著作物ではありません。

プログラム言語というのはプログラムを作るための専用の言語のことです。
日本語や英語などそれ自体が著作物にはならないのと同じで、プログラム言語も著作物にはなりません。

規約というのは、プログラム言語を使用する上での約束事のことです。
解法というのは、プログラム言語で使用される指令の組み合わせ方法のことで、アルゴリズムとも呼ばれます。
これらは誰が書いても同じような表現になる、つまり「思想感情の創作的表現」ではないため著作物にはなりません。

プログラミング言語を使用して作られるプログラム自体は「誰が作っても同じ」ではないため著作物になることに注意してください。

著作権法の保護から外れるもの

著作権法13条では、以下のものには著作権が発生しないと定められています。
これらはたとえ思想感情が創作的に表現されていても保護がありません。

  1. 憲法その他の法令
  2. 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)又は地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第一項に規定する地方独立行政法人をいう。以下同じ。)が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの
  3. 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの
  4. 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの

難しい表現が並んでいますが、簡単に言えば「憲法や法律、条例など」「国や自治体などの通達の類」「裁判所の判決文」などは著作権法は保護しないということです。
例えば裁判所の判決文を丸々他所に無断転載しても問題ありません。

裁判例でみる著作物性の判断

著作権法に書かれている定義は以上となりますが、著作物になるのかならないのか、判断が難しいものもあります。
ここでは実際の裁判で判断された例をいくつか紹介します。

ここで紹介するのはあくまでも「その裁判で争われた作品」の著作物性の判断です。
他の類似作品も同じ判断がされる可能性は高いとはいえ、絶対ではないことに注意してください。

新聞記事の見出し: 著作物性の否定

新聞記事の見出しは基本的に著作物ではない、と判断された例があります。
(YOL(ヨミウリオンライン)ニュース見出し事件)

記事の見出しは数文字から数十文字程度しかなく(この事件では最大でも25文字未満)、表現の選択の幅が狭く、実際の見出しも記事中の言葉をそのまま、あるいは短縮して表記したものであったため「事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道」に当たる(つまり創作性がない)とされました。

ただしこの事件では、新聞記事の見出しの著作物性は否定されたものの、それを商業的に無断使用していた被告に対して不法行為が成立しています。
(不法行為とは、法律上保護される他人の権利を侵害すること)
つまり、著作権侵害ではないが他人の成果物にタダ乗りして商売をすることは許されない、という判断です。

文字をそのまま、あるいは多少変形してロゴマークにすることはよくありますが、こういったものは著作物性が否定される傾向にあります。
(Asahiロゴマーク事件)

文字というのは情報を伝達するためのものであり、その形状は誰かの創作的表現ではありません。
多少変形させてデザイン性を持たせても、美術の著作物と同視し得るような美的創作性がなければ著作物ではないとされました。

ただし、ロゴと言ってもイラストを含むロゴもあります。
その場合はそのイラストについては著作物となる可能性が高いです。

実用品や大量生産品: 著作物性の否定→一部例外あり

実用品というのは日常的に使用される品のことで、例えば家具、食器、衣服、文房具などが該当します。
これらは実際に活用するためのもので、「品物を見て楽しむ」ものではありません。
実用品のデザインは「応用美術」といい、著作権ではなく意匠権で保護される、というのが一般的です。
(絵画などの「見て楽しむ」用途のものは「純粋美術」といいます)

しかし実用品であっても、美術の著作物と同視し得るような美的創作性があれば著作権法で保護されます。
これは大量生産品でも同様で、「実用品・大量生産品は著作物ではない」と断定することはできません。
著作物性が否定される傾向があるとはいえ、品物を個別に検討する必要があります。
大量生産品にも著作権が認められた例もありますし、近年では家具のデザインに著作物性を認めた裁判例もあります。

漫画やアニメなどのキャラクターグッズは、元となる漫画の絵自体が著作物であるため、これも著作物となります。
ただし著作物となるのはあくまでもそのキャラ絵です。
例えば筆箱にキャラ絵が印刷されているからといって筆箱それ自体が著作物になるわけではありません。

キャラクター(設定、性格): 著作物性の否定

キャラクターの絵: 著作物性の肯定

一般的に「キャラクター」というと「キャラクター絵」を指すことが多いですが、正しくは「登場人物の設定や性格」を意味します。
これは判決文などでは明確に別物として書かれていますので、まずここを混同しないように注意しましょう。

登場人物の「設定、性格」といったものは抽象的概念(アイデア)に過ぎず、それ自体は保護されません。
(ポパイネクタイ事件)
既存の有名な作品の登場人物と同じような設定、性格の登場人物を作っても著作権侵害にはなりません。
ただし、設定や性格を具体的に表した文章は著作物ですので、文章をパクるのはダメです。

漫画やアニメなどはキャラクターを視覚的に表現しています。
つまり具体的表現である「絵」です。
このキャラクター絵は美術の著作物として保護を受けます。

小説でも漫画でも、登場人物の「設定や性格」といったものは保護されませんが、それを具体的に表現した「文章」や「絵」は著作物になる、ということです。

ちなみに、キャラクター絵の複製とは、漫画の特定のコマに描かれた登場人物と細部まで一致することを必要とはせず、そのキャラクターを描いたものであることを知り得るものであれば足りる、とされています。
(ポパイネクタイ事件)
これはつまり、そのキャラを描いたものとわかるならば、構図やポーズなどが異なっていても複製に当たるということです。

写真(スナップショット、商品写真): 著作物性の肯定

写真は基本的に著作物となります。
これは上述の著作権法10条の例示に含まれることから明らかです。

ただし、創作性のない写真は著作物とはなりません。
例えば証明写真などはほとんど機械的に人を真正面から写しただけのもので、著作権を認めるほどの創作性がない可能性が高いです。

とはいえ、素人が撮影したスナップ写真にも著作権は認められているため、著作物性が否定される写真はかなり限定的なものと考えたほうが良いです。
(東京アウトサイダーズ事件)
この事件ではスナップ写真であることを理由に著作物性を否定する理由はないと判示されています。

商品カタログに掲載の写真も著作物であると判断されています。
(商品カタログ著作権侵害事件)

ネットへの投稿、書き込み: 著作物性の肯定

インターネット掲示板への書き込み文に著作権を認めた例があります。
(ホテルジャンキーズ事件)

ただし、すでに説明した通りごく短文で創作性がないようなものには著作権は認められません。
あくまでも、インターネットへの投稿だからといって著作物性を否定するような理由にはならないということです。

タイトル、人名、造語、語呂合わせ: 著作物性の否定

映画や書籍などのタイトルはごく短い文字数しかないのでほぼ著作物性が否定されます。
同様に、造語や人物名も保護されません。
こういったものは著作権ではなく商標権で保護します。

語呂合わせも基本的に短文ですから、著作物性が否定される傾向にあります。
しかし語呂合わせにも著作権を認めた裁判例が存在します。
(古文単語語呂合わせ事件)
この裁判では42個の語呂合わせのうち3つに著作権を認めましたが、やはり著作権は認められにくい傾向にあると言えます。

ちなみに著作権が認められた語呂合わせは以下のようなもので、他の著作権が認められなかった語呂合わせと文字数は同程度です。
単純に文字数だけでは判断できないことが分かります。

朝めざましに驚くばかり
志賀直哉もガーナチョコレートを食べたい
頭うちつけ突然の死。軽率なバイク事故
(東京高裁 平成11年9月30日)