許可の要らない著作物の利用方法・4
営利を目的としない上演等(著作権法38条)
ライブやコンサートなどで音楽などを演奏する場合、著作者に著作権料の支払いが必要となります。
これは他人の著作物を使用してお金儲けをするわけですから、著作者にいくらかが還元されるべきであるからです。
営利を目的としない上演とは、営利行為でなく、かつ観客から料金を徴収せず、出演者にも出演料などで金銭等の支払いをしない場合を言います。
この場合は著作者に許可はいりませんし、著作権料の支払いも必要ありません。
ただしその著作物がすでに公表されている(不特定多数に公開されている)場合に限ります。
(営利を目的としない上演等)
著作権法 第38条第1項
公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
無料で使える例をいくつか挙げると、
- 文化祭でコピーバンドを結成し、みんなの前で演奏する
- 学校の合唱コンクール
- 運動会でBGMとしてCDを流す
- 公民館などで映画を上映する
非営利であり、無料かつ無報酬であることが条件です。
著作物を利用することによって誰も金銭的な利益を得ない場合に無料で使用できます。
出演者への報酬の支払いはダメですが、交通費、弁当代、宿泊施設代などの実費程度であれば支払っても問題ありません。
(「著作物の提供又は提示につき受ける対価」ではないため)
それを超える分は無報酬とは見なされないのでNGとなります。
直接的に対価を得ていなくても営利目的となる場合も
例えばお店などの店舗でBGMを流すなどの場合は営利目的とみなされます。
店舗などに来るお客はBGMに対してお金を払うわけではないですが、店舗でBGMを流すのは、音楽によるイメージ作り、雰囲気作りを行うことで集客をアップさせる目的です。
このことが「営利目的」となるため非営利にはなりません。
露店などで短時間BGMを利用する場合や福祉施設、医療施設での利用、事務所や工場などで従業員のみを対象とした利用であればJASRACは使用料を免除するとしています。
http://www.jasrac.or.jp/info/bgm/index.html
ただしこれはあくまでもJASRACの規定ですので、JASRACの管理する音楽著作物以外には関係ないので注意が必要です。
放送される著作物の公衆への伝達
喫茶店等にテレビを置いて客が視聴できるようになっているところがありますが、テレビやラジオ放送はそのまま客に見せることが認められています。
この場合はたとえ営利目的であってもOKです。
著作権法 第38条第3項
放送され、又は有線放送される著作物(放送される著作物が自動公衆送信される場合の当該著作物を含む。)は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金を受けない場合には、受信装置を用いて公に伝達することができる。通常の家庭用受信装置を用いてする場合も、同様とする。
この場合に使用できるのは「家庭用受信装置」を用いての伝達です。
家庭用受信装置とは単純にテレビやラジオを指します。
これ以外のものは使用できませんし、出来るのは「伝達」だけです。
たとえばHDDレコーダーに録画したテレビ番組を客に見せることはできません。
(録画は複製行為に当たる。「複製」して伝達することまでは許されていない)
非営利目的であれば、「受信装置」を用いて公衆に伝達することができます。
「受信装置」と「家庭用受信装置」の違いは著作権法上は明確ではありませんが、一般家庭では用いられないような特別な機材を使用する場合と考えられます。
ただし非営利目的であっても、大型スクリーンを用いてテレビ放送を伝達することは放送事業者の権利(著作隣接権)を侵害することになるのでできません。
公表された著作物の非営利での貸与
公表された著作物は、非営利目的であれば公衆に対して貸出ができます。
「非営利」の定義は非営利での上演の場合と同じです。
図書館がタダで本を貸出できるのはこの例外規定があるためです。
ただし映画の著作物は非営利であっても貸与できないと定められています。
(「映画の著作物」とは動画全般と考えてください)
著作権法 第38条第4項
公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。
なお、この規定は「公衆」に対して貸し出しする場合です。
そもそも著作権法の貸与権というのは「公衆」に対して貸し出しすることに対する権利です。
つまり、著作権者に無断で著作物を「公衆に対して」貸し出しすることは、本来は違法です。
しかし非営利ならば無許可でも良い、というのがこの規定です。
貸す相手が「公衆」でない場合、そもそも貸与権の範囲ではありません。
つまり、不特定多数ではない相手(特定かつ少数)にならば非営利でなくても貸し出しができます。
友人間で著作物を貸し借りすることはそもそも著作権法では制限されておらず、有料で貸しても問題ないということになります。
DVD(映画の著作物)も、友人間での貸し借りは問題ありません。
非営利なら何でも許されるわけではない
非営利での上演等で認められているのは「上演」「演奏」「口述」「上映」、あるいは「(テレビ、ラジオを用いての)放送の伝達」「貸与」です。
これ以外はたとえ非営利目的であってもできません。
複製や公衆送信などは非営利でも認められていません。
例えば、他人の曲を演奏したものをネット上に公開するのは「演奏」のほかに「公衆送信」という行為になるので、非営利目的であってもできません。
いくら非営利だといってもコピーしてタダで配ったりネットにアップロードするのはダメということです。
厳密にいえば公衆送信できる規定もあるのですが、一般人にはほとんど関係のないようなケースでの話なので省略します。
Youtubeやニコニコ動画の場合
少し話がそれますが、非営利でもネットにアップロードするのは認められないと書きました。
これはあくまで許可を取らない場合であって、事前に許可を取れば問題ありません。
Youtubeやニコニコ動画などの有名動画サイトはJASRAC、Nextoneという著作権管理団体と事前に契約を結んでいます。
契約の内容を要約すると
- 楽曲の利用が許可されている
- 自分で演奏したものであれば投稿ができる
- CDの音(および許可を得ていない他人の演奏)を使用することはできない
というものです。
上記の著作権管理団体は楽曲の著作権を管理していますが、CDには著作隣接権という演奏者やレコード製作者の権利が含まれています。
(⇒著作権の種類参照)
JASRACなどが管理しているのはあくまで楽曲自体の著作権だけで、著作隣接権までは管理していません。
管理していない権利を他人に対して許可を出すことはできないので、CDの使用許可までは契約によって許可されていません。
(著作隣接権はレコード会社が持っています)
つまりYoutube、ニコニコ動画に投稿可能なものは
- コピーバンドの演奏(演奏者全員から投稿の許可を得たもの)
- ギターの弾き語り
- アカペラ
- 打ち込みなどの方法で曲をカバーしたもの
などです。
他人の演奏であってもその演奏者の許可があれば問題ありません。
たとえば個人製作の曲で、その作者自身が許可を出している場合は動画サイト等で利用することができます。
またニコニコ動画はいくつかのレコード会社と個別に契約を結んでいて、CDの利用までを可能にしています。
使用可能な曲は以下のURLから見ることができます。
http://license-search.nicovideo.jp/
このようにあらかじめ許可されている使用方法であれば著作権法は気にすることなく許可された範囲で著作物を利用することができます。
ちなみにJASRACと契約しているサイトは以下のページで確認できます。
https://www.jasrac.or.jp/info/network/ugc.html
- 非営利・無料・無償、つまり誰も金銭的な得をしない場合は著作物を無料で使用できる
- 直接お金を受け取らなくても、集客などに利用するのは営利目的と見なされる
- 非営利で使える範囲は制限されており、非営利なら何でも許されるわけではない
- 特に「複製(コピー)」「公衆送信(ネットで公開)」は認められていない
- 事前の許可があればその範囲で著作物を利用できる