許可の要らない著作物の利用方法・1

付随対象著作物の利用(著作権法30条の2)

たとえば街中で写真撮影をしたら、背景にポスターが写り込んでしまったとします。
他人の著作物を写真撮影することは複製行為なので、この写真は私的な範囲を超えての使用はできなくなるのでしょうか?

そんな時に適用されるのが付随対象著作物の利用の規定です。
付随対象とは要するにメインではなくたまたま入り込んでしまった、などの意味です。

この場合、その写真は本来の使い方と同じ使用ができ、使用方法は制限されません。
ブログにアップロードしたりしても構いません。
ただし権利者の利益を不当に害するような場合は除きます。

2020年10月施行の改正著作権法により、付随対象著作物の利用の条件が緩和され、より幅広い利用が可能になりました。

以下は改正前と改正後の条文です。

(付随対象著作物の利用)
著作権法 第30条の2(2020年9月末まで)
写真の撮影、録音又は録画(以下この項において「写真の撮影等」という。)の方法によつて著作物を創作するに当たつて、当該著作物(以下この条において「写真等著作物」という。)に係る写真の撮影等の対象とする事物又は音から分離することが困難であるため付随して対象となる事物又は音に係る他の著作物(当該写真等著作物における軽微な構成部分となるものに限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該創作に伴つて複製することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該複製の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

(付随対象著作物の利用)
著作権法 第30条の2(2020年10月以降)
写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)を行うに当たつて、その対象とする事物又は音(以下この項において「複製伝達対象事物等」という。)に付随して対象となる事物又は音(複製伝達対象事物等の一部を構成するものとして対象となる事物又は音を含む。以下この項において「付随対象事物等」という。)に係る著作物(当該複製伝達行為により作成され、又は伝達されるもの(以下この条において「作成伝達物」という。)のうち当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る。以下この条において「付随対象著作物」という。)は、当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において、当該複製伝達行為に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

条件

「付随」ですから、軽微な写り込みであることが条件です。
その著作物をメインとした撮影は「付随」ではありません。
付随対象著作物(写り込んだ著作物)の画面上の位置が問題になるのではなく、全体としてオマケと言えるような軽微なものかで判断されるでしょう。

また、撮影時に分離が困難である場合に限られます。
付随対象著作物を避けて撮影することが簡単にできる場合には認められません。

「分離が困難な場合」という条件は緩和され、分離が容易な場合でも「正当な範囲内」であれば付随対象著作物が利用できるように法改正されました。
例えば日常の風景の撮影などではわざわざ著作物が写り込んでいるからといって、それをわざわざ避けて撮影することはほとんどありません。
誰もが当たり前にやっているようなことは許容される範囲と考えられます。

ただし、随対象著作物の権利者の利益を不当に害するような場合は認められません。

写真以外でも適用範囲

上では写真撮影の場合で説明しましたが、映像の撮影や音声の録音の際にもこの例外規定は適用されます。
街中で動画の撮影中に近くの店舗から音楽が流れてきて入り込んだ場合なども、この例外規定によって問題がないということになります。

さらに、写真や動画の撮影、音声の録音以外の複製や伝達も可能にするように法改正されました。
例えば翻案に当たらない範囲での変形(著作権法上は複製に当たる)や、インターネットでの生配信(伝達)などの場合などがこれに当たります。

「創作」の要件も削除されたため、著作物の創作とは言えない行為であっても利用可能になりました。
例えば定点カメラによる撮影などは創作性が否定されますが、このような場合でも写り込んだ著作物を利用可能です。

実際に利用する場合

上記の規定は「複製することができる」、つまり撮影や録音ができる、というものです。
撮影した写真を実際に利用する場合には同条の2項の適用があります。

著作権法 第30条の2 第2項
前項の規定により利用された付随対象著作物は、当該付随対象著作物に係る作成伝達物の利用に伴つて、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該付随対象著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

付随対象著作物が含まれる写真等は、方法を限定せずに利用することができます。
(もちろん利用できるのはその写真等の権利者で、他人が勝手に利用できるわけではありません)

ただし、これも権利者の利益を害さない場合に限られます。
例えば写り込んだ著作物の部分を拡大やトリミングなどの加工をしてメインとして利用する、などの方法は出来ないと考えられます。

  • 他人の著作物が偶然写り込んでしまったような場合は、その著作物の作者の許可は取らなくても利用可能。
  • 写り込みが軽微で、分離が困難な場合に限る。
  • 写り込んだ著作物の著作権者の利益を不当に害す場合はダメ。
  • 写真のほか、録画や録音も対象となる。
  • その他の複製や伝達の場合でも対象。