二次的著作物とは

ある著作物から派生した作品

二次的著作物とは、簡単に言えばある著作物を元に作られた著作物という意味です。
例えば前ページで出した例のような「自分で描いた好きな漫画のキャラクターのイラスト」などです。
動画サイトなどでは「MAD」というアニメや映画などを繋ぎ合わせたものもよく見られます。
元作品が「一次」なので派生作品を「二次的著作物」といいます。

ネット上では二次創作という言葉の方が一般的でしょう。
好きなキャラクターの絵を描くというのは最も一般的な二次創作です。
漫画などのファンサイトでは、ある漫画を元にして独自の展開を作り小説にしたりもしているようです。
既存のキャラクターを使った同人誌も二次創作になります。
ただし「同人」という言葉自体は商業流通ではない趣味の作品という意味ですから、オリジナルの設定、オリジナルのキャラクターの同人誌は二次創作にはなりません。

正確には「二次的著作物」と「二次創作」は同じ意味ではありませんが、とりあえずは同じものとして説明します。
詳しくはページ後半で説明します。
(「二次創作」という言葉について)

二次創作は合法?

ネット上はもちろんのこと、いろんなところで二次創作物を見かけます。
これは二次創作が合法だからでしょうか?

答えは基本的には違法です。
著作物を作者の許可なく改変することは翻案権または同一性保持権の侵害となります。
改変しない場合、たとえば漫画のお気に入りのシーンをトレース(模倣)して描く場合(創作性がない場合)などは複製権の侵害となります。

それをネット上に公開する場合は公衆送信権の侵害にもなります。
(⇒公衆送信権と違法アップロード)

しかしこのサイトでも何度か説明したとおり、違法だからといってすべてが削除されたり、ましてや逮捕されたりするわけではありません。
ほとんどの二次創作物は作者の許可を得てはいませんが、ファン活動の一環として黙認されています。

作者としても、自分の漫画のキャラクターイラストをネットに公開されたところで何の損害もありません。
むしろファン同士の交流を盛んにして作品を盛り上げてもらいたいと思っているのではないでしょうか。
(もちろん作者によるので一概には言えませんが)

黙認=合法、ではないことに注意してください。
著作権法では、著作権者は著作物に関する権利(複製権や翻案権など)を「専有する」と定められています。
他人が権利者に許可を得ることなくこれらの権利を無断で行使することは違法であることは変わりません。
(当然、著作権法上許された使用方法は無断でもOKです。
詳しくは⇒許可なく著作物が使えるケースを参照。)

ただし、著作権侵害は基本的に親告罪といって、作者が訴えて初めて罪に問える犯罪です。
(親告罪については別の機会に詳しく説明します)
作者が訴えない限り問題になることはほぼありません。
そのため黙認は「合法」とは言えないものの「違法」と断じてしまうほどでもない、グレーな状態であると言えます。

同人誌について

既存のキャラクターを使った同人誌はグレーゾーンと言われています。
(上で説明した通り、法律的にはアウトです)
名目上はファン同士の交流ですが、実際には同人誌を有料で販売しています。
他人の著作物(キャラクター絵など)を勝手に使って勝手にお金儲けをしていると(本来は)逮捕級の犯罪です。
多くの同人作家、同人サークルは赤字かトントンの売り上げ程度だそうですが、中には結構稼いでいるところもあると言われます。

同人誌の中にはオリジナルストーリーを展開するのではなくキャラクター同士の性行為を描いた作品も多くみられます。
こういうものはやはり不快に思う作者もいるでしょう。
これが問題になって同人作家が逮捕されたこともあります。
いくらファン活動だといっても、キャラクターイメージを損なうような作品を一般に公開されては作者にとって損害になると判断されても仕方ありません。

それでも毎年コミックマーケット(同人誌の即売会)は盛況ですし、よほどのことがない限りは黙認状態が続くのではないかと思います。
また上にも書きましたが、作者の許可があれば問題はありません。
「二次創作は基本OK」としている作者もいるようです。

ファンの交流という名目を守るため「販売」ではなく「頒布」という言葉が使われています。
著作権法上は無料でも有料でも扱いは同じです。
(無料なら合法ということはありません)
また著作権法上の用語である「頒布」とは意味が異なります。

基本的に二次創作は違法といいましたが、必ずしもそうは言い切れないケースもあります。

元となる作品があったとしても、その元作品の著作物性が失われるほどの改変が行われている場合はそれはもはや二次創作ではなく新たな別個の作品である、とされます。

具体的にどの程度の改変が行われていれば著作権侵害にならないか、という明確な線引きはありません。
二次創作ではなく単純に似てしまっただけかもしれませんし、あいまいな部分が多いのも事実です。
もし問題が発生した場合は裁判で争われることになります。

また、キャラクターそれ自体は著作物ではないという判例があります。
(ポパイ事件ファービー事件など)
じゃあ漫画のキャライラストを描いてネットに公開してもいいんじゃ?と考えてしまいますが、漫画キャラの絵は「漫画」という著作物に基づくものですから「美術の著作物」として保護されます。
そのため、そのキャラクターを知っている人が「これはあの漫画のキャラだな」とすぐにわかるようなイラストは二次的著作物になると考えられます。
(単にキャラクター絵を描いただけで、描いた人の創作性がないような場合は二次的著作物ではなく単なる複製として扱われます)

著作物ではない、と判断されるキャラクターは

  • ファービー人形のような、既存の著作物からの派生でなく、最初から大量生産を目的として作られたキャラクター
  • 小説などに登場する、具体的な外見を持たないキャラクター(の設定、性格など)

と考えられます。

つまり、人気小説のキャラクターを無断で使用した続編をファンが勝手に書いたとしても、それは著作権法的な話だけで言えば合法ということになります。
(ただし一般不法行為として訴えられる可能性はあります)

また、大量生産を目的として作られたとしても、それ単体で高い創作性があれば著作物になります。
(博多人形事件)
大量生産だからすべて著作物ではないとは言い切れない、ということは注意が必要です。

二次創作物の著作権

二次創作物は、元の作品があるとはいえ単独で作品として成立します。
二次創作物(二次的著作物)もその作者の「思想または感情を創作的に表現したもの」になるので、著作物です。
つまり二次創作の作者は、自分で作った作品の著作権を持つことになります。

当たり前ですが、二次創作の作者は原作品の著作権は持ちません。
あくまで自分で創作した個所についての著作権を持ちます。

そして原作品(一次創作)の作者(著作権者)は、二次創作物の作者と同じ種類の権利を持つことになると決められています。
作者が二次創作を不快と感じるのなら、複製権や翻案権の侵害などで訴えることが出来ます。

二次的著作物には「原作者の権利」と「二次的著作物の作者の権利」の二つが存在します。
そのため、第三者が二次的著作物を利用する場合、原作者と二次的著作物の作者の両方から許可を得る必要があります。

簡単にまとめると

  • 二次創作物は著作権で保護される
  • 二次創作物は、その作者と原作品の作者とが同じ権利を持つ
  • 原作品の作者は二次創作物の許可または禁止を決定できる
  • 当然ながら二次創作物の作者は原作品の著作権は持たない
  • 二次的著作物を第三者が利用する場合、原作者と二次的著作物の作者の両方の許可が必要

「二次創作」という言葉について

ここまで二次的著作物と二次創作物とをほとんど同じ意味で扱ってきましたが、厳密には異なる言葉です。
二次的著作物は著作権法で定義されている法律用語ですが、二次創作という言葉は誰が考え出した言葉なのかが不明で、はっきりした定義はありません。
そのため、全く同じ意味で使用すると誤解を生む可能性があります。

二次的著作物は、ある著作物を変形するなどして新たに創作した著作物を言います。
新たに創作したという点が重要で、新たに付け加えた要素に著作権法で保護されるような創作性があることが必要です。

一方で、二次創作はある著作物を元にして作られた作品、といった感じの定義です。
(既に書いた通り定義があいまい)
二次創作という言葉ではありますが、必ずしも著作権法で保護されるような創作性は必要とされていないようです。

例えば、ある漫画の絵をトレースしたものを描いたとします。
ただのトレースに創作性はないので、著作権法上は単なる複製物であり、二次的著作物にはなりません。
しかし、このトレース絵は二次創作物と呼ばれることがあります。
定義があいまいなため、何が二次創作に当たるかは人によって異なるのです。

逆に、上で説明した「ある小説のキャラクターを流用して作られた続編小説」は、二次創作物と言えますが二次的著作物にはなりません。
ある著作物を変形するなどして新たに作品を創作したものが二次的著作物です。
小説のキャラクターや物語の設定自体は著作物ではなく、原作品中に存在するその他の創作的表現(文章そのものや挿絵など)を流用しないのであれば、この続編小説は原作品の著作物ではない箇所を流用したに過ぎず、二次的著作物にはならないのです。
著作権法的には合法というのはこのためで、著作物ではないものを使っただけでは著作権法に引っかかることはありません。
しかし、原作から派生した作品には違いないので、一般的な感覚で言えばこれは二次創作小説と呼べるでしょう。

二次創作とパロディ・オマージュ

二次創作に近い概念にパロディがあります。
これはある作品を題材として新しく作品を作るというものです。

またオマージュという言葉もよく聞かれます。
これはある作品に対して尊敬の意味を込めてわざと似たような作品を作ることです。

明確な線引きはありませんが、基本的には二次創作物になると考えるべきでしょう。
基本的に許可がなければ違法ということになりますが、侮辱などの作者への明確な悪意や損害がない限りは問題にされることは少ないです。
これは作品を作る人間はある程度批判にさらされることは覚悟しているからと考えられます。
しかし作者の意図しない改変は不快に思う人もいますし、度を過ぎればただの盗作になりますので、判断の難しいところです。

特にオマージュの場合は設定や演出といった「著作物ではない点」を類似させる程度で、作品自体は全然別物ということもよくあり、著作権法的に全く問題ないことも多いです。

二次創作物にならないパロディ、オマージュは存在します。
しかし、判断は容易ではないので、二次創作物になる前提での創作や扱いをするのが無難です。

近いうちに「パロディ規定」なる新たな著作権法の改正を行うことが検討されているそうです。
どのような内容になるかはまだわかりませんが、二次創作についての違法性がある程度緩和されるものと思われます。

偶然同じような作品を作ってしまった場合

著作物を創作していると、たまたま他人の作品と似通った作品を作ってしまうことがあります。
このような場合は二次的著作物にはなりませんし著作権侵害にもなりません

二次的著作物は、著作物を翻案して新しい著作物を創作することです。
翻案の元となる著作物がなければ翻案には当たらないので、二次的著作物にはなりません。

複製も、複製の元となる著作物が必要です。
複製元がなくゼロから生み出している以上、複製にも当たらないので、偶然の一致は著作権侵害になることはありません。

ある著作物を元にしていることを依拠している、といいます。
(拠り処(よりどころ))
依拠性がない場合、著作権侵害にはなりません。

ただし、本当に偶然の一致なのか?という疑いをもたれる可能性はあるでしょう。
あまりにも有名な作品であれば「知らないはずはない」とされる可能性はあります。
仕事で専門的に著作物を創作している人ほど、自分の業界のことは「知っていて当たり前」とされる可能性が高くなるようです。

  • 二次的著作物(二次創作物)とは、ある作品を元にして作られた新しい作品
  • 基本的に違法だが、明らかな悪意や作者への損害がない場合は黙認されることが多い
  • もし作者が「止めろ」と言えば直ちに公開を停止しなければならない
  • もしやる場合は作者が不快に思うような内容は避けよう
  • 作者によっては二次創作をあらかじめ許可している場合もある
  • 偶然の一致は二次創作にも著作権侵害にもならない