著作隣接権とは
著作隣接権は、作者ではなく著作物を伝達する人間に発生する権利です。
「著作者隣接権」ではないので注意してください。
(「著作者」に発生する権利ではない)
著作隣接権者になれるのは実演家、レコード製作者、放送事業者の三者です。
実演家の権利
実演家というのは著作物を具体的に表現する人のことです。
例えば脚本をもとに演じる役者、楽譜をもとに音楽を演奏する楽器演奏者などです。
演技や楽器演奏などを著作物の実演といいます。
実演家は他の著作隣接権者とは違い、自らの思想感情を表現する余地が多分にあります。
そのため実演家にも人格権(実演家人格権)が認められています。
ただし著作者人格権とは権利の中身が異なり、著作者人格権よりも弱い権利となっています。
実演家人格権は著作者人格権と同じく人格権の一種ですが、説明の都合上このページで説明しています。
(⇒著作者人格権)
実演家人格権
- 氏名表示権
- 実演を公衆に提示する際に、氏名(あるいは変名)を表示するかしないかを決めることができる権利
(変名=ペンネームなどのこと) - 同一性保持権
- 名誉、声望を害する形で実演を改変されない権利
実演家には公表権はありません。
同一性保持権は、著作者人格権にあった名誉声望保持権が合体していて、名誉や声望を害する改変をされない権利になっています。
「意に反する改変」を禁止する権利は実演家にはありません。
改変が行われていない場合、名誉を害するような表現が行われても著作権法上は侵害とはなりません。
著作権法上は違法にならないとしても、名誉毀損罪や侮辱罪、民法の一般不法行為に該当する可能性はあります。
氏名表示権は「公正な慣行に合致する場合」は実演家の利益を害するような場合であっても省略が可能になっています。
例えば音楽などは楽器の演奏者が全て表示されてることのほうが少ないですから、実演家が表示してくれと主張していても認められない可能性が高いでしょう。
(もちろんケースバイケースです)
実演家の著作隣接権
- 録音権、録画権
- 実演を録音、録画する権利
(複製も録音、録画に含まれる)
ただし映画に出演する場合にはこの権利はない。(※)
映画のサントラを発売する場合はこの権利はある。 - 放送権、有線放送権
- 実演を放送する権利(※)
インターネット生放送などは著作権法上の「放送」には含まれない。 - 送信可能化権
- 実演をネット上で公開する権利(※)
- 譲渡権
- 実演を録音、録画されたものを公衆に譲渡(販売も含む)する権利(※)
ただし一度適法に譲渡されたものはそれ以降は譲渡権は及ばない。 - 貸与権
- 実演が録音されたものを公衆に貸与(貸すこと)する権利
ただしこの権利は発売から1年まで有効。 - 報酬請求権
- 商業用レコード(CDとか)が放送で使用された場合に使用料を受け取る権利
商業用レコードが貸与された場合に使用料を受け取る権利
ワンチャンス主義
上の表で「※」が付いているものは、権利の制限があります。
これは、実演家(正確には録音、録画権を持つ人)から、許諾を受けて録音、録画がされた場合にはその権利が及ばないというものです。
例えば映画を作る場合、実演家から録音、録画することの許諾があった場合(普通はあるはずです)、実演家はそれ以降は録音・録画権を行使することはできません。
その映画がDVD化された場合などに改めて権利を主張することはできないということです。
仮に実演家の録画権を認めると、出演者全員から許諾を得ないとDVD化できないことになり、著作物の利用に著しい制限が掛かってしまうためです。
実演家は、最初の録音・録画の時点でその報酬を受け取ることができます。
逆に言えばそれ以降は報酬が発生しません。
これをワンチャンス主義といいます。
ただし放送権(有線放送権)に関しては若干ややこしいことになっています。
テレビなどの番組に出演する場合、その実演が放送されることは実演家は当然許可しますが、この「放送の許諾」には「録音、録画の許諾」は含まれないためです。
(著作権法第63条、103条)
そのため、放送の許可だけを得た状態の場合、その実演を放送することはできますが、後にDVD化する場合は実演家の許可が必要となります。
出演契約時に録音、録画の許可を得ているならば再度許可は必要ありません。
レコード製作者の権利
レコードというのはすでに一般人はほとんど使用しませんが、著作権法の「レコード」は「音を物に固定したもの」をいいます。
音楽CDはもちろん、ネット配信される音源もレコードに含まれます。
ただしDVDなど、映像と一緒に記録されるものは除かれます。
レコード製作者とは、最初にその音を録音(物に固定)した人をいいます。
- 複製権
- レコードを複製する権利
- 送信可能化権
- レコードをネット上で公開する権利
- 譲渡権
- レコードの複製物を公衆に譲渡(販売も含む)する権利
ただし一度適法に譲渡されたものはそれ以降は譲渡権は及ばない。 - 貸与権
- 商業用レコードの複製物を公衆に貸与(貸すこと)する権利
ただしこの権利は発売から1年まで有効。 - 報酬請求権
- 商業用レコードが放送で使用された場合に使用料を受け取る権利
商業用レコードが貸与された場合に使用料を受け取る権利
放送事業者の権利
放送事業者とは端的に言えばテレビ局やラジオ局のことです。
地上波や衛星放送のほか、有線放送(ケーブルテレビなど)も含まれます。
インターネット放送は著作権法上の「放送」には含まれません。
なお、「放送」と「有線放送」は著作権法上は微妙に異なりますが、ここでは同じものとして扱います。
(有線か無線かの違いです)
- 複製権
- 放送を複製する権利
- 再放送権
- 放送を再放送する権利
- 送信可能化権
- 放送をネット上で公開する権利
- テレビジョン放送の伝達権
- テレビ放送を、影像を拡大する特別の装置を用いて公に伝達する権利
「テレビジョン放送の伝達権」とは、例えばビル等に設置されている大型のディスプレイでテレビ放送を流す権利です。
テレビ放送をそのまま(録画等せずに)公衆に見せることは非営利による上映にあたるので、通常は問題なく行うことができます。
(詳しくは非営利での上演等を参照)
しかし大型ディスプレイを使用してこれを行うことは放送事業者がその権利を持っています。
非営利ならば良いという規定もないので無断ではできません。